女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「おい、何なんだよ――――――――」
「お前は」
彼はそのよく通る低い声で、斎の言葉をかき消した。
「部長の娘と食いにいけよ。明日からのセールで、あっちもどうせ残業だろう」
「・・・」
「お前の彼女は、あっちなんだろ?」
一瞬ぐっと詰まった斎ににやりと笑って、桑谷さんは私に手でおいでおいでをした。
私は立ち上がって、体中の埃を手で払った。そして無言で、誘われるがままに歩き出す。
「おい!まり!」
怒鳴った斎を振り返る。
「・・・・お疲れ様、守口さん。すみませんけど、それ、直しといて下さいね」
床に散らばった伝票の束と、ひしゃげたダンボールを指差した。
「―――――――――それと」
突っ立ったままの斎に冷たい声が出た。
「気安く名前で呼ばないで」
そしてゆっくりと丁寧に倉庫のドアを閉めた。