女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
彼が近づくのを待って、声をかける。
「・・・お待たせしました」
照明の下でにっこり笑って、桑谷さんが言う。
「何食べる?」
こんなに男っぽい荒削りの顔で、子供みたいな無邪気な笑顔が出来るんだなあ、と私はぼんやり見詰める。笑うといきなり印象が変わった。
彼が首を傾げたので、返答を待っているのだと気がついて返事をする。
「ビールが飲めれば、どこでも」
彼は私の答えに声を出して笑って先に歩き出した。
時間も遅いからと一番近い居酒屋に入った。創作居酒屋と書いてある謎の店。創作料理を出しているのか、店内が創作なのかと突っ込みたいわ、とカウンターに並んで座ったあとも店の中を見回していた。
店は半分ほどの入りだった。ほぼ初対面の人とテーブルに向かい合って座るのにはちょっと困惑しただろうから、カウンターを選んでくれたのが嬉しかった。
生ぬるい外の空気から冷やされた店内に入るとホッとする。
さっきかいた冷や汗とは別に、外の暑い空気は私の体に汗をかかせていた。
「とりあえず、生」
「二つ」
桑谷さんが注文した横からピースを店員にして見せて、私はおしぼりで両手を拭いた。とにかく、とすぐに出された生ビールで乾杯をする。