女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「―――――――あー・・・美味い」
ぐぐっと飲んで一息ついた桑谷さんが、目を閉じて嬉しそうにした。私もそれに倣う。
喉を流れ落ちる炭酸にうっとりとした。この刺激が欲しくて、想像した時から待っていたのだ。
ああ・・・仕事が終わったあとの一杯のために生きてる気がする・・・。ストレスをあの悪魔から受けているここ最近は、特に。
ふう、と息をついて再度ジョッキを傾けた。食べ物、適当に頼んでいい?と彼が聞くのに、目もやらずに飲みながら頷く。
「・・・いい飲みっぷりだな」
彼の低い声は笑いを含んでいた。
「えーと・・・桑谷さん、でしたよね」
「おう」
椅子の上で体ごと隣を向いて、ぺこりと頭を下げる。
「先日も、先ほども、ナイスヘルプでした。ありがとうございます」
彼はビールを傾けながらヒラヒラと片手を振った。
「階段は、偶然居ただけだ。急に降ってきたからビックリしたけど、間に合って良かった」
「本当に。もう少しで事故死だった」
呟いて、つきだしに箸をつける。