女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


「そうですか」

 何て一般的な返事。私は無表情で相槌をうつ。肩透かしを食わされた気分だった。彼は若干苦笑したらしい。ふ、という声が漏れたのを聞いた。

「他に理由がいる?小川さんは、チョコレート屋だよな、鮮魚から見えるから、存在は知ってたんだ。階段から振ってきた時に、ああ、あの子かと思った」

 ああ、そうか。私は頷く。うちの店からも鮮魚売り場はしっかりと見える。相手からも見えていて当然だよね、そりゃ。

 彼はビールジョッキを傾けながら続けた。

「前から、笑ってる時と何か考えている時との差が激しいなあ、と思ってた」

「え?」

 ちょっと意表をつかれて、私は隣を振り返る。笑顔と考えてる時の差?そんなに難しい顔してたかな?ってか、結構な距離がある鮮魚から見て判るほどに百面相をしてたのだろうか。

「・・・お客様にも判るほどだったら、販売員失格ですね」

 うう~・・・と小さく唸る私を見て、くっくっく、と彼は笑う。そんなことねーだろ、人間なんだし、と面白そうにコメントをしてからビールを飲んだ。
 
 その横顔を眺める。

 弧を描いたしっかりした眉の下には冷静な光をたたえた一重の目。鼻筋や顎のラインがゴツゴツしていて、非常に男っぽい感じがする。

 ブサイクとも、美男子とも言えるような、独特な顔をしていた。濃い、というか。この顔は、好きになる人と嫌いになる人がハッキリと分かれるだろうなあと思うような作りだ。


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