女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~


 じーっと見ていたら、彼は表情も変えずにさらりと言った。

「そんなに見詰められると照れるんだけど」

「あ、すみません」

 私は視線を彼から外して自分の取り皿の中に集中する。アルコールが体に回りだして、段々リラックスしてきた。

「あのー、桑谷さんは、百貨店の社員さんですよね?」

「うん、そう」

 食事を口に運びながら、鮮魚売り場や百貨店について教えて貰う。自分の知らない世界のことを聞くのは面白かった。

 桑谷さんは百貨店の社員さんとしては中堅で、以前は4階の靴売り場に居たらしいが、2年ごとの人事異動で地下に配属が変わったこと、そこでももう2年目で、やっと魚に関して知識が増えてきたことなどを、面白おかしく話してくれた。

 彼は表情もころころ変えるし、話の運び方がとてもうまかった。私はアルコール抜きでもきっと楽しめたはずだ。今ではすっかりリラックスして、この夜の食事を楽しんでいた。

「百貨店の社員さんは、2年毎に移動なんですか?」

「人によるけど・・・まあ、大体そんなもんかな。色んな場所で経験を積めってことだな」

「そしたら、もう桑谷さんも移動ですか?」

 彼がにやりと笑ってこっちを見た。


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