女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~
「せっかく小川さんに近づけたのに、今移動はいやだなー」
「・・・移動先にも女性はいますよ、たくさん」
「おや、そう返す?」
桑谷さんは苦笑して、指で自分の額で弾いた。その動作が可愛くて私はつい笑ってしまう。更にビールのお代わりをして、空のジョッキをカウンターにのせた。
彼は私以上に飲んでいけれど、殆ど影響がないように見えた。元々アルコールに強いのかもしれない。今も、平気な顔してデパ地下の七不思議に関して話している。
「ありがとうございました~」
声が聞こえて、他の客が帰宅するためにドアが開く。その音でハッとして、私は目で時計を探した。
カウンターの中の壁に掛けてある時計では、もう11時を20分も回っていた。
「あら、もうこんな時間」
・・・終電は何時まであるんだっけ、と一瞬現実感が戻る。飲み干してしまって帰らないと。明日は遅番だけど、仕事があるし―――――――――
その様子を見ていたらしい桑谷さんが、ジョッキを手で揺らしながら言った。
「―――――ところで、小川さん」
「はい?」
私はジョッキの淵に口をつけたまま隣を見た。
「好きな男はいる?」
・・・あら。