pianissimo.
「いっ……」

反射的に私、携帯電話をその場に投げ捨てるように手放した。



「えっ? ちょっとラッシー……」

そんな私に一瞬驚いた声を上げ、けれど至って落ち着いた動きで、郁香はカシャンと大きな音を立てて落ちたそれを拾い上げる。そうして自分の耳元へ持って行く。


「郁香、ダメッ!」

咄嗟にそう叫んだけれど、無駄だった。


「何コレ……」

郁香は唖然とした表情で微かな声を漏らし、けれどすぐそれを耳から剥ぎ取るように離して、大袈裟なほど力を込めてオンフックボタンを押した。



怪訝そうな顔で携帯電話の画面に視線を落としたまま、

「『オレ』って誰?」

表示されていた着信者の正体を尋ねる。


< 253 / 401 >

この作品をシェア

pagetop