pianissimo.
放心状態で凍り付いたように立ち竦む私に、郁香が「ラッシー、大丈夫?」と心配そうに聞く。


「ああ、うん。大丈夫」

と頷いて、頑張って笑ってみたけれど、顔が引きつっているのが自分でもわかった。



それからは、お互い口をつぐんだまま、静かに順番を待った。二人の間にある沈黙と、周囲の喧騒がまるで別世界のように感じて、酷く居心地が悪かった。



郁香はハンバーガーとアイスコーヒー、私はポテトとシェイク、それぞれ買って、空いている席に向かい合うように腰掛けた。



「ねぇラッシー。聞いていい?」

遠慮がちに郁香が尋ねるので、「ダメ」と冗談ぽく返して笑った。ちょっと気持ちが落ち着いた。多分、今はちゃんと笑えていると思う。


「ダメって言われても聞くけどね、友人として」

郁香も冗談ぽく返して悪戯っぽい笑みを見せる。けれど、ほんの少しその笑顔に緊張を滲ませて続けた。


「あのさ、ライガの彼女、何でラッシーにそこまで執拗に嫌がらせすんのかな?」


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