月の綺麗な夜に。
少しずつ目も見えるようになったら、みんなの顔もわかるようになって、声と顔が一致してきた。
「チャゲ!ただいま!」
洋子ちゃんは、帰ると必ず声をかけてくれる。
『おかえり!』
私も満面の笑みを浮かべてこたえる。
「今日は会社で化粧位してこいって言われちゃった。」
『化粧臭くなったらいややなぁ!』
「そうだよね。」
たわいもない話だが、不動産屋の事務員になった洋子ちゃんは、社長に言われたらしい。
『でも、仕事なんだからしょうがないんちゃうの?』
「あ〜ぁ。しょうがないのかなぁ?」
次の日から口紅だけは、ちゃんとしていくようになったみたい。
『口紅だけでも大丈夫だよ。』
「これだけでも大丈夫だよね?」
『大丈夫、大丈夫!』
「じゃ、行ってきま〜す!」
口紅だけでもちゃんと化粧をしているみたいに見える。
洋子ちゃんは元気に出勤して行った。