待ち受けカノジョ。
リビングのソファーに一人きりで座っている父ちゃん。

いつもの、あのピアノの曲が流れている。


「順平、ミナミちゃんは帰ったか?」

「…うん」

オレの方を見ないで話す父ちゃんの背中に返事をする。


「ねえ、父ちゃんはどうして再婚しないの?」

ずっと疑問だった事が今、口から出た。

「ん?なんだ唐突に」

チラッとオレを見た後、また背中を向ける父ちゃん。


「考えたことねーな、再婚なんて」

「誰かを好きになったりしないの?」

「ああ、ならんな。俺は自分が大好きだからな」


父ちゃんが飲んでいる水割りの氷の音が、カランと鳴る。


「なんでだよっ!?」

なぜか声を荒げてしまうオレ。

「女のお客さんとか、オレが連れてく女の子とかに、結構人気あるじゃん!それに、ミナミさんだって…」

父ちゃんのこと、ずっと好きだったのに!


「誰かを幸せにしたいって、思わないのかよ?」


無性にハラがたつ。

少しでもよかったんだ。

ミナミさんの気持ちを少しでも受け入れてあげれば、辞める必要なかったんだ。


「あ~ん?」

振り返った父ちゃんが、けげんな顔でオレを見つめる。

「なんだオマエ、今日おかしいぞ?ガキは早く寝ろ」


クッ…!

ガキとか言うな!


バッと体をひるがえしてリビングから出て行こうとするオレに、父ちゃんは一言つぶやいた。

「オマエのその髪…いい色だな」


バタンッ!

オレは思いっきりドアを閉めた。
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