待ち受けカノジョ。
その日は、台風が近づいていて、すごい風が吹いていた夜だったわ。

私は、たまには順子と飲もうかと思って、奮発してちょっと高いワインを買って、順子のアパートに行ったの。


玄関の横の小窓は、真っ暗だった。

順平が寝てるからだと思って、ドアノブをそーっとまわして静かに玄関から入った。

靴を脱いで、部屋に足を踏み入れたその時、

私は自分の目を疑ったわ。


真っ暗な奥の寝室で、順子が順平の首に手を伸ばしていたから。

かすかな月明かりに照らされた順子の顔は、なんの感情もない人形のようだった。

背筋がゾクッと凍りついたわ。

手から滑り落ちたワインがガシャーンと音をたてて割れた。

その音に気が付いた順子が、ゆっくり首をまわして私を見た。

私は急いで順子に駆け寄って、順平から引き離したの。


うつろな目で床にペタッと座る順子。

その背中をさすりながら、私は放心状態の順子のそばで、恭平が帰ってくるのをひたすら待った。

でも、いつまでたっても恭平は帰ってこなかったの。


いつの間にか、部屋には朝の光が差し込んでいた。

元気に起きてきた順平に胸をなでおろしながら、私は朝食を作った。

順平は「おいしい!」と言いながらモリモリとベーコンサンドを食べて、学校へ飛び出して行った。


それから私は一睡もしてない順子を連れて、病院に行ったわ。

重いうつ病と診断され、順子はそのまま入院した。


アパートに戻ると、とっくに帰って来てた恭平がのんきな顔して「おかえりー!」とか言ってるのよ。

私は思わず、恭平にバシッと平手を喰らわしてた。


順子を苦しめる恭平が許せなかったのよ。
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