待ち受けカノジョ。


あれから滝山くんは、

立ちすくんだまま動かない。

何もしゃべらない。

ただ、一点だけをじっと見つめている。

目線の先には、ゴミ袋に捨てられた、大切な思い出。

「滝山くん…」

「……」

返事は返ってこない。

「それ、拾ってあげて?」

「なんで…だよ」

空気が震えるような低い声。

「拾ってもしょーがないじゃん。もう、忘れられてたんだから」

急にしゃがみこんで袋の口を結ぼうとする滝山くん。

「や、やめてっ!」

「なに?…なんなんだよ!」

滝山君に睨みつけられた私。

心臓がドクッと鳴った。

こんな怖い顔、するんだ…

それは、今まで見たこともない、暗く冷たい氷のような表情だった。

いつもヘラヘラしてるけど、意外と心の中に脆い部分があるのかもしれない。

「ホ、ホラ!だってさ、それ、お母さんが縫って直してくれたんでしょ?もしかしたら、お母さん覚えてるかもしれない」

「……」

「今度お母さんに会った時さ、聞いてみようよ。捨てるのはそれからでも遅くないでしょう?」

しばらく無言だった滝山くんは、袋に手をゆっくりと入れて、そっとマスコットを取り出した。

「…そうだね」

サッサッとなでて、ホコリをはらう。

「お母さんも、覚えてるかどうかわからないけど」

そうつぶやいた滝山くんは、また机の引き出しを開けてマスコットを奥の方に置いた。

パタン

引き出しが閉まる。

「ま、仕方ないか。10年も前のことなんて、忘れて当然だ。うん、そうだよね」

そう言って、滝山くんがパンパンと両手でお尻をはたく。

「あ、あのね、滝山くん、私…」

「いいよもう!今の、忘れて」

私の言葉はさえぎられた。

「そうだ、掃除機かけないと!掃除機掃除機~」

バタバタと出て行った滝山くん。

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