待ち受けカノジョ。
ピクッ…


あっ!

奈緒の手がかすかに動いた。

「な、奈緒っ!?」

静かに、ゆっくりと目が開く。

「滝山…くん」

気が付いた!

「良かった!奈緒!」

奈緒が苦しそうに呼吸をしながら、うつろな目でオレをじっと見つめる。

「滝山くん…私の名前、呼んでた?」

「そうだよ!さっきからずっと呼んでたよ!」

弱々しく微笑む奈緒。

「分かったんだ。分かったんだよ!大丈夫!助かるから!」


そう。

オレはやっと気が付いた。

さっき病院にいる時、携帯を持ち上げようとして掴んだら、びっくりするほど熱かった。

ひっくり返してよく見ると、電池が膨れてたんだ。

どっちの奈緒も熱出して苦しんでるけど、原因は携帯の電池だと思う。

「電池交換すれば大丈夫だから!」

オレが助ける!

必ず!!


大粒の雨がバラバラと降り注ぐ。

「奈緒!待ってて!」

携帯をバックに押し込んで、雨の中を走り続けた。



はぁ…はぁ…

息が苦しい。

でも、奈緒の方がもっと苦しいんだ。

体中に雨がビシビシ当たって、矢に打たれてるように痛い。

オレはどうなってもいい。

奈緒を助けるんだ!

携帯ショップまであと少し。

足が折れてもいい!

腕がちぎれてもいい!

走れ!

走れ、オレ!!
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