待ち受けカノジョ。
「実は…なに?」

振り返ったおばさんの目は涙ぐんでいる。


「いえ、何でもないです」

そう言うと、今度は振動しなかった。


やっぱり『言わないで』のサインだったんだ。


「でも…」

わざと、声のボリュームをちょっと上げた。

奈緒にも聞こえるように。


「でも、きっと戻りますよ!僕はそう信じてます」

「そうね…」

おばさんは奈緒の方にゆっくりと振り返り、優しく声をかけた。


「私も信じなきゃね」

力ない奈緒の手を、おばさんは両手で包み込んだ。

親子の手はげっそりとこけたおばさんの頬に、そっとあてられる。


「早く戻っておいで、奈緒。元気になったら、奈緒の好きなチーズケーキ一緒に食べようね…」

おばさんの目からあふれた涙が、2人の手を伝わって流れる。


ごめんなさい、おばさん…


オレは何もできない。


ポケットの中ですすり泣くように震える携帯を、何度も何度も指でさすり続けた。
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