糖度∞%の愛【編集前】
9
その日は、何でもないいつもと同じ一日になるはずだった。
誕生日でもなければ、何かの記念日でもないし、これといった行事の予定もない。
いつもと同じように昨日泊まった彼方の家から、置かせてもらっている昨日のスーツとは違うものを身にまとって一緒に出社して、部署の違う彼方とはエレベーターの中でお別れ。
彼方の部署のある階は上だから、まだその箱の中に残る彼方に小さく手を振って扉が閉まるのを見送った瞬間に、私の頭の中は仕事でいっぱいになる。
今日までに提出する予定の書類はもう粗方かたちにできているから、そんなに時間をとられることはないし、急ぎの用もなかったはずだ。
自分のデスクについてもそのデスクの上は昨日となんら変わりのない状態で、特に仕事が追加された様子もなかった。
いつもより楽に一日を終えられるかもしれないな、と内心ほくそ笑んでいると、私の微かな笑みよりもっと目じりを垂れ下げて満面の笑みを浮かべた部長がじっとこちらを見ていた。
思わず座ろうとしていた途中の変な体勢で固まってしまう。
なんだろう、とってもあの笑顔が不気味なんだけど。