糖度∞%の愛【編集前】
「沙織と付き合っているというからとりあえず中に通したら、座るなり『結婚するから許してほしい』と言われた。 だからお前に確認の電話を入れたんだが有無を言わせずに切られてしまったから、アイツも帰るに帰れないし俺も帰すに帰せないからお前の連絡を待っていたんだが、いつの間にか美佐子とあんな感じになった」
あんな感じ、と言いながら親指を後ろに向けてクイッと指し示すお父さんはちょっぴり悔しそうで、柄にもなくお母さんと彼方が仲良くしているのに妬いてるんだと分かる。
でもそれを指摘したらもっとお父さんの機嫌が悪くなるのは分かっているから胸の内で楽しむことにするけれど、それにしても彼方はいったいどういうつもりなんだろう。
今の今まで彼方の口から結婚しようという言葉を貰ったことはないし、あるとすれば“結婚を前提に付き合ってください”という言葉だけ。
いったいいつ結婚する、ということになったのか、私が知りたいくらいなんだけど。
でもこれでお父さんが私にあんな突飛もない電話をしてきた理由が分かった。
わかったけどこれだけは言っておかなくちゃいけない。
「お父さん、私も結婚するって今初めて知ったんだけど」
私の言葉に、今度はお父さんがポカンと口を大きく開けて見事に驚いてくれた。
さっきまで微動だにしなかった仏頂面が、呆気なく崩れた様は正直笑えるけれど、お父さんの驚きも分かるので私は神妙な顔つきでお父さんを見つめた。
「今?」
「そう今初めて知った」
「……五月女君とそういう話は」
「最初に告白されたときに“結婚を前提に付き合ってください”とは言われたけど、それくらいよ」
お父さんは私の言葉を聞くなり、とても50を優に超えてると思えないくらいの身のこなしでソファを飛び越え、キッチンの方へと走っていく。