糖度∞%の愛【編集前】
そんなお父さんに、「お父さん、部屋の中で走らないでください」とたしなめたお母さんの声にも耳を貸さずお父さんはキッチンから彼方の耳を掴んで引っ張って連れてきた。
痛いです、と遠慮気味に訴える彼方はお母さんのエプロンをつけていて、右手には菜箸を持っている。
それに構わず彼方をリビングの床に座らせて再びソファに座って腕を組んだお父さんは、一つ息を吐いてから切り出した。
「……五月女君、どういうことだ?」
私はお父さんから視線を外して彼方へと目をやる。
いつの間にか来ていたのか、お母さんもお父さんの隣に静かに腰を降ろした。
彼方は、エプロンをつけた見ようによっては間抜けに見える格好で、でもまっすぐに真剣な顔でお父さんとお母さんの方を見つめて口を開く。
「結婚したいのは今のところ俺だけの意志です。 でもそれを沙織さんに申し込むにはまず沙織さんのご両親に了解を得てからだと思ったんです」
その言葉にお父さんはふんと鼻を鳴らして、お母さんは口に手を当てて「まぁまぁ」と微笑むだけだ。
「今まで沙織さんを支えてきたご両親の後を継いで、俺は沙織さんをご両親の分まで支えて幸せにしていきたい。 そのためには俺を知ってもらわないことにはご両親に結婚の承諾を得られないと思ったので朝からお邪魔させていただきました」
床に手をついて頭を下げた彼方の姿に、胸が痛いくらいに締め付けられた。
あぁもう、どこまで馬鹿正直で、どこまでまっすぐ私を想ってくれてるんだろう、この男は。