糖度∞%の愛【編集前】


急な抱擁に対処しきれなかった彼方は、私の勢いのままリビングに押し倒されて大きな音を立てて頭を床にぶつけていたけれど、私は溢れる涙もそのままに抱きついて、宥めるように背中をぽんぽんとたたいてくれる彼方の手にどうしようもないくらいの愛しさを感じた。


「沙織は、どうなんだ」


彼方を押し倒したような状態の私の背中に、お父さんから真面目な声でそんな質問を投げられた。

その声にゆっくりと彼方から離れてお父さんの視線とまっすぐ向き合う。






「私は、結婚するなら彼方じゃないと嫌」






なんだか駄々をこねるような子供のような言い方になってしまったけれど、それが私の今の気持ちだ。


「ダメな私も、病気の私も、仕事にのめりこむ私も、すべてを受け止めてくれる彼方じゃないと、私は結婚したくない」

「泣かされたのに?」


間髪入れずにお父さんがそう切り返して、でもあの受付嬢のことがあったからこそ今の私たちがあるんだと分かるから私もすぐに「泣かされても彼方じゃなきゃ嫌」と言い放つ。


リビングに沈黙が落ちる。


それでも彼方から伝わる温もりと、お父さんの向こうにいるお母さんの微笑みと、お父さんも顔をしかめてはいるものの威圧感は感じないせいで、お父さんの答えに希望を持ってしまう。

< 133 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop