糖度∞%の愛【編集前】
「あのさ、彼方……?」
地上の灯りが足元に見えるほどの高さにあるレストラン。
しかも部屋の中には私と彼方の座る席しかなくて、いわゆるVIP席だということは聞かなくても分かる。
そしてここは誰もが一度は耳にしているくらいの有名店で、雑誌でもよく取り上げられているくらいに人気が高くて、こうやって予約を取れたことも奇跡に近いしだとしたらいつから予約をしてくれていたんだろうと考えてしまう。
わざわざ個室にしてくれたのは私が周りの目を気にせずに血糖測定やインスリンを打てるようにという、彼方の想いやりだと言われなくても分かってしまっているから余計に胸がいっぱいで嬉しさで満ち溢れる。
次から次へ、食べ終えたタイミングを見計らってちょうどよく運ばれてくる料理の数々は、どれも見て楽しくて食べておいしいという噂に違わぬものだった。
……それなのに、目の前に座る彼方はグラスに注がれた水だけを、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲んで、何かを考え込んだかのように黙るとまた再び水を飲むということを繰り返している。
両親との対面も終えて、あんな言葉を貰っていたからこの展開は実はひっそりと期待していた言葉を言って貰えるんだと、ドキドキしながら食事を進めていたんだけれど、今私の目の前にあるのはたくさんの一口サイズのケーキたち。
中央の長方形のお皿に綺麗に乗っているそれらのうちの一つをゆっくり味わいながら食べ終えて、二つ目も取ろうかと思ってはいるけれど、それよりも食事に口を付けずにいる彼方が心配になって声をかけてしまったのはしょうがないと思う。