糖度∞%の愛【編集前】
「…もういいんですか?」
少しだけ残念そうに、でも意地の悪い顔で聞き返す目の前の男の藍がかった黒い瞳をまっすぐ見つめる。
「アンタ、まつ毛すらそんなに長いなんて嫌味?」
そんなこの場にそぐわないことが口をついて出てしまったのは、照れ隠しとほんの少しの時間稼ぎ。
「沙織さんだって化粧してないときもまつ毛長いし唇プルプルじゃないですか」
で、返事は?
さりげなく褒めながらもすぐに返事を催促。
抜け目がない。 少しくらい考える余裕をくれてもいいと思うんだけど。
「好き嫌いにかかわらず同じ質問の答えで告白を受けたり断ったりする沙織さんが、そうやって答えあぐねているってことは、ボクはそうとう期待していいってことでしょうか?」
ニヤリ、と形のいい唇を上げておどける男は、私の思考なんてお見通しなんだろう。
「五月女、」
「彼方って呼んでください」
溜息と一緒に呼んだ名前も、間髪入れずに訂正される。
敬語なのにすっごく威圧されてる気がするのは気のせいじゃない、きっと。