scar-傷痕-
ブロロロロr…
あれから数十分。
あたしは神田さんの車に乗っていた。
助手席に座るあたしと運転している神田さんとの間には微妙な空気が流れている。
神田さんの美麗な顔には赤々とした紅葉がくっきり残っていた。
人生初、男の人を平手打ちしてしまったあたしは自分の右手をじっと眺めた。
「オイ糞ガキ」
「…」
「ちっ」
返事はしない。
彼も彼で殴られたことに怒りを感じているようだがこっちだって怒っている。
「医大でいいんだよな?」
「はい」
ふんっ
お互いに必要最低限の会話だけ交わしてそっぽを向く。
車は大きな大学病院に向かっていた。
今日はお母さんの退院日。
大幅に予定がずれてしまったあたしは仕方なく神田さんに送ってもらっている。
――そう自分に言い聞かせて無言を貫いた。
「降りろ」
「分かってますよ」
到着するなり言い捨てられてドアを開ける。
子供の喧嘩みたいにこのまま別れようかとも思ったけれど、あたしは昨日から神田さんにお世話になりっぱなしだった。
「色々ありがとうございました」
だから今日三度目の頭を下げて彼が発進するのを見守る。
「ああ」
一言だけ返事をして神田さんは帰って行った。