scar-傷痕-
日常
向かったのは精神科と呼ばれる病棟。
白いセカイに白い人達。
ここにいると白が苦手になってしまいそうだ。
【宮下】とプレートに書かれた部屋を開ける。
ちょうどお母さんが荷物を詰め込んでいる所だった。
「おはよう優奈。来てくれてありがとう」
「ううん、おはようお母さん」
にっこりと微笑みあう。
よかった。
今日は調子がいいみたい。
「やっと家に帰れるわ。お母さんがいなくていろいろ不自由したでしょ?ごめんね」
そっと引き寄せられて頭を撫でられる。
そんなことはない。
家事には慣れているし、久しぶりの自由だった。
だけどあたしは『いい子』の仮面を貼付けて決まり文句を言う。
仮初めの平穏が壊れてしまわないように。
「少し寂しかったけど大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう」
模範解答。
嬉しそうに笑うお母さん。
穏やかな時間が壊されたのはその数秒後だった。