僕は君の声を知らない。
一章:見つけたら。
「あっつー…」
俺は、夏が嫌いだ。
蝉の鳴き声も
窓から見える入道雲も
刺さるような日光も
全部全部嫌いだ。
「おまけに扇風機まで壊れやがって…」
苛立ち任せに教室の角にある扇風機を叩いた。
「おいこら、扇風機に当たんなって。
お前のせいで地球温暖化が進んでいったんだぞ」
後ろから背中をこづかれた。
「いや、俺のせいじゃないから」
振り向かなくてもクラスメートの河野だと分かる。
大体、河野の家は電器屋だから、元凶はきっとコイツだ。
くたばれ。
「今、俺んちのせいにしたろ」
「お前は俺のせいにしたろ」
お互い様だ。
「あーっ」
意味もなく、些細なことに苛つく。
(…夏のせいだ)
うちわ代わりに使っていたノートを机に叩きつけた。
「あ、そうそう!
なぁ、中津、今日の話らしいんだけどさ」
河野が隣の席に座る音がして、やっと振り返る。
「柊 一羽って覚えてる?」
「…あー…」
確か、一年の半ばで不登校になったって聞いたことがある。
「まぁ、名前だけなら聞いたことあるけど」
「今日、学校来るんだってよ」
ものすごくいい笑顔の河野。
「…へぇ」
と、返せば不満げにため息をつく。
「お前って他人に興味ないわけ?」
「いや、あるある」
棒読みの言葉。
軽くあしらえば朝のショートの予鈴がなる。
(…あぁ、
鬱陶しい)
レモンホワイトのカーテンで、俺は夏を隠した。