影姫月蝶−カゲヒメゲツチョウ−
悲しい現実の過去の夢に私の頬には涙の乾いた後が残っていた。
私、夜月之宮蝶(ヤヅキノミヤチョウ)は夜月之宮家の姫として生まれた。
しかし私が五つの時に城内に潜んでいた裏切り者の手によって一時期夜月之宮家は滅ぼされてしまった。
母様、父様は亡くなってしまい…最愛の兄様までもが私の前で力尽きてしまった。
あれから私は生き残った少ない兵士達に助けられ兵士達の戦力と頭脳で今の夜月之宮を作り上げた。
そして十年たった今私はこの夜月之宮家の姫君の身となっている。
母様に父様、兄様を奪った裏切り者を見つけ、復讐する事だけが私の目的。
でも城の人達は夜月之宮家を継ぐ者の心配ばかりしている。
自室で考え込んでいると共にいた女中が私に言った。
「姫様、そろそろお見合いの話をお受けになられてはどうでございましょう」
またその話か…と私はため息をついた。
「私はまだ十五よ?見合いなら先でも大丈夫じゃない」
私は微笑みながら言った。
女中との話を終わらせると私は何気無く庭先の池に来ていた。
呆然と池の中の鯉を見つめる。
「姫、どうかされましたか?呆然と池なんか見ていらっしゃって」
後ろから声をかけて来たのは兵士の輝将(テルマサ)だった。
十年前に私を助けてくれた兵士達の中の一人、あの頃まだ輝将は十だった。
「別に…何も…」
私は素っ気無く答えた。
「殿達の事をお思いに…?」
輝将は静かに訪ねた。
「私は裏切り者に復讐するためにあるの、今更甘えや情なんてない…」
私は〈姫〉としての言葉を並べた。
「〈姫〉という肩書は重荷でしょう…いくら城の主であろうと姫はまだ十五です」
優しく話してくれる輝将に甘えてしまいそうになる…。
私は強がりながら言葉を並べ続けた。
「私はっ…ただ裏切り者が憎いだけなの…」
絞り出した言葉があまりに悲しくて顔が少し歪んでしまった。
「無理は…するな」
敬語を使わずに優しく頭を撫でてくれた輝将は…
どこか兄様に似ていて…
押さえていた感情が漏れてしまいそうになった。
「幼き日から姫と共にいたんだ、私も…妹の様に思って来た」
「輝将………」
「だから無理はするな」