影姫月蝶−カゲヒメゲツチョウ−
黙って夭菜の話を聞いていた。
「ですから…姫様は絶対に近付いては行けません!」
少し強く言った夭菜。
「わかった…」
そう言うと夭菜はまたやわらかく笑った。
「私達は姫様を守る為にあるのです、守るものが無くなってしまえば私達は生きる意味が無いのですから危ない事は避けてください…」
そう言って笑顔に戻りまた夕飯作りを再開させた。
私は笑顔で平然を装っていたけど内心は少し沈んでいた。
北の都の人達には小さい頃からよくしてもらっていたし夜月之宮家を復活させ私が主をすると告げても心から応援してくれていた。
この日は頭がその事でいっぱいだった。
小さな頃は此処から遠い場所に城があったので都には少ししか遊びに来られなかった。
でもそれでも都の人達は覚えてくれていて普通の身分の子も沢山遊びを教えてくれて…。
私は自室で髪を溶きながら考えていた。
「危ないから近付かないで」
危ないからってまた逃げ出すの?
「誰かの仕業ではないかと…」
ならその誰かを見つけないとじゃない。
私はまたくだらない言い訳を盾に逃げ出そうとしてる。
年、性別、そんなの関係ないじゃない。
私は姫なんだ。
守りたいものを守って死ねるなんて最高の死に方じゃないか。
とりあえずこのままほおって置きたくない。
だったら行くしかない。
私が非力で何も出来ない事なんて百も承知だ。
でも母様や父様、兄様の時の様に逃げ出したくないんだ。
変えられない過去に囚われているからこそ、同じ事は繰り返したくない。
静かな夜、私は決した。
都に行こうと。
過去に誓うと。
真っ黒な空には美しい月が輝いていた。