蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜時の宰相〜‡
「旦那様、ご報告がまいりました」
「そうかですか、頼みます」
「はい。
先程の術式、ミュクラーの『ヘリクトレス』で間違いないとの事です。
術者はまだ年若い少女であったとの報告が…旦那様…?」
「っ…ついにお帰りにっ…」
「…旦那様…」
この二百年、何と長かった事か。
この世に生まれて二千と数百、時の流れなど感じなくなっていたと言うのに…。
「苦しかった…待つ事が…生きる事がこれ程苦痛を伴うものであったとは…」
目を閉じれば今も鮮明に浮かび上がる。
向けられた微笑みに心が躍った。
惹かれずにはいられない魂の輝きを放って…。
けれど、その輝きはその身をも滅ぼす程の強さで…なぜこの結末を予想できなかったのかと何度も己を責めた。
後悔などと言う想いなど、とうに忘れ去っていたと言うのに…。
だからこそ、何百年振りかに抱いた後悔は強く、大きく心を占めた。
「旦那様、お出掛けの準備は整っております」
「そうですか…世話になりましたね」
「いいえ、もしお許しいただけるのなら、この先もお仕えしたいと思っております」
「…ですが…」
「姫様とのお二人の時間のお邪魔はいたしません。
使用人一同、奥様をお迎えすると思い、お世話をさせていただく所存でございます」
「この屋敷は手放す気でいたのですが…」
「良いお返事をお待ちしております」
「わかりました」
こんなにも一つの国に長く留まったのは初めてだった。
”時の宰相”と呼ばれても、国に執着した事はない。
上手く舵を取っても、国など結局は王の心次第。
どれほど上手く建て直した国でも、大抵次の代の王が全てを壊してしまう。
『またか…』と思う。
『この国はもう駄目だ』
そう思ったなら、すぐに荷物をまとめて退官する。
そして、背を向けた国は滅び、次に仕えるに足る王が前に現れる。
何と節操のない男だろう。
それを看破したのは小さな姫だった。
『あなたは”子ども”のよう』
『っ…姫っ?…それはどう言った…っ』
『かんじたままをいったの。
あきたら”ほうりなげ”、もとめられればよいかおをしてあたらしいばしょへいく。
まるでこどもでしょ?
すぐにあきて、あたらしいものにひかれる。
むいしきのうちに”あいされる”ばしょをさがす。
子どもとはそういうものだと”にょかん”がいっていた』
たった五歳の少女に見抜かれた。
運命にも似た衝撃を受けた。
それが、私が愛する人との最初の出逢い。
「旦那様、ご報告がまいりました」
「そうかですか、頼みます」
「はい。
先程の術式、ミュクラーの『ヘリクトレス』で間違いないとの事です。
術者はまだ年若い少女であったとの報告が…旦那様…?」
「っ…ついにお帰りにっ…」
「…旦那様…」
この二百年、何と長かった事か。
この世に生まれて二千と数百、時の流れなど感じなくなっていたと言うのに…。
「苦しかった…待つ事が…生きる事がこれ程苦痛を伴うものであったとは…」
目を閉じれば今も鮮明に浮かび上がる。
向けられた微笑みに心が躍った。
惹かれずにはいられない魂の輝きを放って…。
けれど、その輝きはその身をも滅ぼす程の強さで…なぜこの結末を予想できなかったのかと何度も己を責めた。
後悔などと言う想いなど、とうに忘れ去っていたと言うのに…。
だからこそ、何百年振りかに抱いた後悔は強く、大きく心を占めた。
「旦那様、お出掛けの準備は整っております」
「そうですか…世話になりましたね」
「いいえ、もしお許しいただけるのなら、この先もお仕えしたいと思っております」
「…ですが…」
「姫様とのお二人の時間のお邪魔はいたしません。
使用人一同、奥様をお迎えすると思い、お世話をさせていただく所存でございます」
「この屋敷は手放す気でいたのですが…」
「良いお返事をお待ちしております」
「わかりました」
こんなにも一つの国に長く留まったのは初めてだった。
”時の宰相”と呼ばれても、国に執着した事はない。
上手く舵を取っても、国など結局は王の心次第。
どれほど上手く建て直した国でも、大抵次の代の王が全てを壊してしまう。
『またか…』と思う。
『この国はもう駄目だ』
そう思ったなら、すぐに荷物をまとめて退官する。
そして、背を向けた国は滅び、次に仕えるに足る王が前に現れる。
何と節操のない男だろう。
それを看破したのは小さな姫だった。
『あなたは”子ども”のよう』
『っ…姫っ?…それはどう言った…っ』
『かんじたままをいったの。
あきたら”ほうりなげ”、もとめられればよいかおをしてあたらしいばしょへいく。
まるでこどもでしょ?
すぐにあきて、あたらしいものにひかれる。
むいしきのうちに”あいされる”ばしょをさがす。
子どもとはそういうものだと”にょかん”がいっていた』
たった五歳の少女に見抜かれた。
運命にも似た衝撃を受けた。
それが、私が愛する人との最初の出逢い。