蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜知らぬ事実〜‡

足下に散乱する書の山を隔てた向こうに立つ彼女は、こちらがぐるぐるとこの状況への説明を頭で考えるうちに、先ず片付けをと言い出した。
彼女は足下の書物を抱え、迷わず棚に並べていく。
はっとして、自分も片付ける為に手を動かし始める。
何も考えず、近くの棚に書を差し込もうとした時だった。

『それは右端の上から三段目です』
『?…』
『それはその二つ目の棚の二段目に、年代順で…そっちは後ろの左端、一番上の段に番号順に並べてください』

考えるより先に体が動いた。
言われた通りに並べて、棚を改めて見れば、確かにこの順だったように思える。
だが…。
そう思って彼女を見れば、既に最後の数冊を迷いなく差し込むところだった。

『よく知っておられるのですね』
『この辺りは読みましたし、その辺りはほとんど年代順や番号順なので』
『?…五十冊ほどありましたが、きっちり収まりました。
この辺りの本は何度も御覧に?』
『いいえ、一度だけ』
『?的確でしたが?』
『ええ、間違いないと思います。
この辺りの書は、よほどの事がない限り動かす事もありませんし、この並びでないと必要な時に見つけられません』

当たり前のように言われるが、全ての棚の書の並びを覚えていなくてはできない芸当だ。
できるわけがない。
迷いなく指示された事実があったとしても信じ難い。

『やはりおかしいのでしょうか、ラダやナーリスはただの体質だと言うのですが』
『…覚えているのですか?
まさか…この書庫の棚、全て…?』
『ええ、一度見たものは忘れません。
読んだ書は、一字一句間違えずに諳じることもできます…』
『…そ…っだから眠らないのですか…?』
『眠れないのです。
クルス様はこの体質を変える方法を知っていらっしゃいませんか?
多くの国を見ていらしたあなたならば、同じような例の方をご存じではないでしょうか?』
『…いいえ…申し訳ありません…そのような能力を持った者が何百年、何千年かに一人現れるといった話は聞いた事があるのですが…対処方は、存じません…』
『そうですか…』

これだろうか、何者にも一線を課していた雰囲気の原因は…。
何と言う運命を持った子だろう。
何年も見ていて気付かなかった。
辛そうな顔の一つも見たことはなかった。
ましてや、長い夜を一人で過ごす姿など見ようともしなかった。

『辛くはありませんか…?』


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