蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜姫の決意〜‡

『クルス様。
私はこれより城を離れます。
父は…王は怨みを負いすぎた。
直にこの国は死の国となりましょう。
選択もできずに死に逝く民達を放っておく事は、もうできません。
私は、私のやり方で責任を果たしてまいります』

そう言う彼女は、あの日”辛い”と泣いていた面影はなく、美しく気高い女王の様だった。
自分自身にさえ興味を抱かない無感情な所のある彼女が、少し前から思い悩んでいる事は知っていた。
あるいは、父である王に代わって王になろうと決意してくれるのではないかと淡い期待を抱いていた。
しかし、何かを決意をした彼女の口から出てきた言葉は、どんな予想とも違っていた。

『城を出てどうするのですか』
『反乱軍をまとめ、民の力でこの国を王から奪います。
そして、民の力で国を再生させます』
『民に…ですが、民達は王だけではなく、貴女方、王族や貴族達をも憎んでいる。
もはや自分達民以外が全て怨みの対象なのです。
国の根本が失われ、国自体が滅んでしまいます』

内乱は国を傾ける。
その上、戦いが終わるまでに長い時間がかかるものだ。
その間に国は衰退し、他国からの干渉で完全に焦土と化してしまう事も少なくない。

『半年…半年で終わらせます。
周辺諸国への協力も得ております。
他国が干渉する事はありません。
半年の間に徐々に有能な官達には退官するように命じました。
国を再生させる為に生きてもらわねばならない者達です。
クルス様も、どうかこの国を離れてください』
『っ…』

それは私が成せなかった事。
滅ぶと分かった国をすぐに捨て去って来た私には一度としてやろうと思えなかった事。
諦めてしまう私には思い付かなかった事。

『お別れです、クルス様。
今までありがとうございました』

嫌だった。
彼女に出会う前の自分ならば、とっくにあっさり退官し、滅びていく国を振り返る事もなかっただろう。
だが、今の今まで見極めを先延ばしにしていたのは、共にいたい彼女が居たからだ。
捨てきれない彼女が居たからだ。

『っ…まっ…待ってください。
わたくしも共に…っ』
『いけませんっ』
『っ…なぜです…っ』
『あなたは必要な方だ。
国にではなく、世界に…。
きっと本当に必要とされている場所があなたにはあります。
生きて、その場所に行ってください。
滅んでいくこの国に、あなたの様な方は居てはいけません』


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