蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜決意の訳〜‡

生きて欲しかった。
こんな場所で、王と共に怨みをかう者であってはならない。
彼は真に多くの者に尊敬され、必要とされる者であるはずだ。
滅んでいく国と共に葬り去られていいはずがない。
生きて、そんな場所を…本当に立つべき場所を探して欲しかった。

『クルス様は生きてください。
あなたはこんな場所で終わっていい方ではない。
どうか良い主を見付けてください』

頭を下げずにはいられなかった。
目を反らさずに全て言いたい事を告げて去ろうと思っていたのに…。
さっと背を向け扉に向かう。
知られてはいけないから…。
本当は離れたくないのだと言う想いを悟られてはいけないから…。
不自然にならない速度で外へと向かう。
早く、早くこの場から出なければ…そんな想いが胸を締め付けた。

『お待ちくださいッ』

発せられた語気の強さに思わず立ち止まる。
ビリビリと空気が振動するような怒りを感じた。

『何処へ行かれるおつもりです。
貴女の側にいるとわたくしは以前申し上げた。
貴女を一人にはしないとお誓い申し上げたはず。
何ゆえ突然、このように離れていかれるのですか』

言わないで欲しい。
近づかないで欲しい。
気付かせないで欲しい。

『帰って来るのですかっ?
ちゃんとわたくしの元へお帰りくださいますかっ?
戻ってくると確約くださいますかっ?』

彼がすぐ傍まで来ている事を背中に感じる。
後一歩で触れられるように思える。
離れなくては…。
一歩を踏み出さなくては…。
そう思うのに動けない。

『リュスナ様…』

そんな風に呼ばれたら…我慢ができなかった。
振り向いて目の前の大きな胸に飛び付く。
思った通りの距離に立っていた彼は、難なく受け止め、きつく抱き締めてくれた。

『ッごめんなさいっ。
けど、これしかもう方法がないっ。
私にはもう、あなたや父が恨まれるのを見ている事はできない。
王の子として生まれて、このまま何もせずに生きていく事はできない。
…あなたの傍にいる資格が私にはない…っ』

いつだって、優しく見守ってくれる事や、こうして抱き締めてくれる事に…そこにある想いに…応える事のできない自分がもどかしかった。
与えられても、返す術を知らなくて…。
彼を自由にしたかった。
もっと多くの人に認めて欲しかった。
彼がどんなに素晴らしいか、どれほど世界に愛されるべき者であるか。
だから、決めたのかもしれない。


< 114 / 150 >

この作品をシェア

pagetop