蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜願う夜〜‡

いつも頭に響いていた。

”わたくしが傍にいられない夜は、星を見上げてください。
星が出たら、その星達に貴女を見守るように願いますから…”

忘れる事のできないはずなのに、誰の言葉だったのか分からない。
それに、星を見上げる事は、もう習慣になっていたから、なぜ覚えていないのか、誰に言われたのかなんて気にならなかった。
ただ、星を見上げれば心が軽くなった。
寂しくなかった。
瞬く様は、優しく見守られているようで嬉しくなった。
城を出て二つ目の季節が訪れようとしている。
予定通りの進行速度で、数日中にはこの戦いも終える事ができる。
王都はもう目と鼻の先。

『よくそうして星を見ているな』

隣に来た彼は、一緒に空を見上げた。

『本当に眠らないんだな…』
『うん』
『でも、何ヵ月かに一度は眠れるんだろ?
もう半年になる…一度も眠ってないんじゃないか?』
『そうだね…でも、もうすぐ嫌と言う程眠れるようになるから…』
『戦いが終わるからか?』
『うん…静かな夜が来る…』
『そうか…なら早く終らせないとな』

静かな…静かな夜が来る。
終わりが連れてくる夜。
この国には、私の居場所はもうない。
必要とされてはいない。
新しい国に私は居てはならない。
全てを明け渡すと言えば聞こえはいいかもしれない。
だが、これは逃げだ。
何もかもを放り出し、責任を全て押し付けて逝く。

『怒られるかな…』

静かに呟いた言葉は誰に対してのものだったのか自分にも分からなかった。

怒るだろうか。
何も告げなかった私に…。

悲しんでくれるだろうか。
この世を去る私の為に…。

”あなた”は何を思うだろうか…。

それは星に託した想い。
届かない願い。
確かに誰かの存在を強く感じているのに、知る事ができない。
眠れないのは、離れてしまった誰かと同じ現実に居たいと思うから。
”あなた”は誰だろうと考えてしまうから。
きっとこれは罰だ。
何もかもを置いて逝く私への罰だ。
ならば、この喪失を抱いて逝こう。
なぜか無くしてしまった”あなた”を知る事なく逝こう。
それしかもうできないのだから…。

『…さようなら…』

想いを乗せて。
この世界と”あなた”に別れを告げよう。

『…さようなら…』

最期の時が近づいてくる。
後悔はもうないのだ。
置いていくものがあったとしても、それを振り返る資格はもうないのだから。


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