蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜新たな願い〜‡

彼女がこの王宮に帰ってきた事は気づいていた。
多くの官が、入れ替わり立ち替わり退官する旨を告げに室へと訪れたから。
先程訪れた官が、姫が父王を手にかけたと伝えた。
そして、少し前には皇子、皇女と妃達が自害されたとの報告もきていた。
きっと彼女は彼らの死も看取っただろう。
体の弱い皇子達は、生き延びたとしても、そう長くはもたなかっただろう。
妃達も、愛する子どもと共に逝く事を選んだ。
だが…。
残された彼女は何を思っただろう。
全てを看取った彼女はどうしているだろう。
早く迎えに行こう。
迎えに行って、国とは関係のない場所へ連れていこう。
彼女が穏やかに笑って過ごせる場所を探して暮らしていけたらいい。
思い悩む事もなく、ただ亡くなった兄姉や義母達、父王を弔って生きて行ければいい。
落ち着いたら、私の見た美しい世界の景色を見に二人で出掛けよう。
いつか、私の生まれた国にも連れて行ってあげよう。
いくつもの未来が見えてくる。
幸せをあげたい。
それは、ずっと抱いてきた願いとは離れてしまうけれど、それよりも強い願いとなって、今私の中にある。
無性に彼女に会いたくなった。

笑顔が見たかった。
安心した顔が見たかった。
穏やかな微笑みが見たかった。

もうすぐ約束の時がくる。
内乱が終わる。
本当に半年で成してしまった。
彼女が王になれば良い王となるだろう。
こうして離れるまでは、いかに彼女を王位につけようかと考えていたけれど、彼女への想いを再認識した今では、そんな考えは霧散してしまった。
さあ、迎えに行こう。
眼を合わせるだけで簡単に術は解けるのだ。
解けたらすぐにこの国を出よう。
もう辛い想いなどさせないように…。

門楼に登ったのは、どこまで反乱軍が来ているのか知りたかったからだ。
要らぬ争いを避ける為、門を閉ざそうとする兵に、もうこの場を放棄せよと伝えた。
そうして見下ろした時、彼女が見えた。
嫌がっていた華美な皇女としての装いで、反乱軍の前に歩み出ていた。
さっと血の気が引いた。
今になって彼女の意図を知ったからだ。
もう間に合わない。
身を乗り出し、眼を見開いた。
ゆっくりと倒れていく彼女がまるで人形の様だった。
眼が合った気がした。
同時に叫んだ言葉は覚えていない。


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