蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜赤い石に願う〜‡

突然周りが暗くなった。
何が起きたのか分からなかった。
ただ唯一分かった事は、蒼葉に拒絶された事がショックだったと言う事だ。

俺だけは必要として欲しいといつだって思っていた。
彼女を自分が必要としているのと同じ強さと想いで必要として欲しいと願っていた。

バルトとしての過去を思い出してからは、手に掛けた事を後悔しながら生きた日々をまた過ごすのかと絶望し、同時に今はまだ蒼葉として傍にある彼女が生きている事に安堵した。

もう二度と過ちを犯さないように。

絶対に失わないように。

そんな想いが占めていく。
次に蒼葉に会ったなら、抱き締めたい。
存在を感じて安心したい。
そう思っていたのに…。

『春臣ッ…そこに居るのっ?』
「ッ蒼葉っ様…」

薄い幕の向こうでこちらを探すように呼ぶ蒼葉の姿を見て驚く。

『春臣…っ』

目が合った。
だが、こちらへと進む足が唐突に止まる。
まるで、それ以上は進めないのだと言うように。
そうして気がついた。
自分が重力も感じないように宙に浮いている事に。

『空間が…』

どうなっているのか分かっているような様子の蒼葉だが、難しい顔をしてこちらを見ている。
我に帰り、自分の身体がまるで言うことを聞かず、この場所から動く事ができない事に愕然とした。

「っ蒼葉様っ…」

その時、目の前に赤い光が瞬いた。
そして、ゆっくりと視界が遮られるように、蒼葉の姿が消えていく。

「ハル…願…っ」
『っ蒼葉様…っ』

完全に見えなくなった空間を呆然と見つめるしかなかった。

《我を求めよ。
願え、安寧を…。
汝の意志を示せ》

響いてきた声は、赤い石から発せられている。
同時に、胸の辺りから光が漏れだしている事に気がついた。
精霊王から預かった石が光を発しているようだった。
その石に意識を向けると、電気が流れるように、突然目の前の赤い石が何なのかを理解できた。

「浄化の石…。
なぜここに…?」
《我に求めよ。
汝の願いを示せ》
「…願い…」

応えなんて。
考えなくても分かっているではないか。

「…お前に願う事など決まっている…。
彼女の憂いを断つ。
俺の存在意義はそれだけだ。
この国に満ちた瘴気を浄化しろっ。
彼女が守ったこの国をっ…美しい国を、故国を彼女に還すんだッ…」

ふいに動くようになった身体に疑問を抱く事なく、無意識に腕を動かす。
ふわりふわりと瞬くその石と精霊王から預かった石を同時に握りしめると、スパークするように光が辺りを満たした。


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