蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜青き石に乞う〜‡

この場所には、何かあると分かっていた。
良いものも悪いものも惹き付けてしまう土地。

誰だったかが言った。
”呪われた土地”だと。

またある者は言った。
”祝福を受けた土地”だと。

わたしにとっては、前者だ。
シコリのように、心を大きく占めた邪魔な想いが色濃く残る場所。
城をまたこの場に建てた馬鹿を呪った。
浄めきれない残滓が漂い、エルフの血を引く己れにとっては毒にしかならない場所。
あえてこの場所の…この国の王になったのは、罰が欲しかったからだと思う。
ゆっくりと蝕まれていく己が心と身体を感じる事に、どこか狂気じみた想いに悦びを感じていた。
だが、何よりも、一人になりたかった。
一人になって姉の事だけを想っていたかった。
何百年と暮らしても、セイレン国を己れの居場所だと認識できなかった。
やはり故国と思えるのは、生まれて、姉と過ごしたこの国だけなのだと分かった時、ようやく目が覚めた想いがした。
もう一度あの国へ帰ろう。
そう思うようになった頃から、母や周りにいたエルフ達が、姉など存在しなかったかのように生きている事に苛立ちを覚えるようになった。

そして、祖父や母の反対を押しきってまでこの国の王になったのは、許せなかったからだ。

この国の民の…人間達の為に死んだ姉を、まるで忌まわしき過去の悪神のように語り継ぐ者達。

許せるはずがない。
こんなにも愚かで脆弱な者達の引き替えになって姉は死んだ。
その死の意味にすら気付こうとしない生き物。

だからこそ。

「…わたしが…悪になる。
だからねぇさま…。
帰って来て…っ…」

子どもじみた感傷。
けれど、姉の事を考えると昔のままの己れでいられる。
もうあの頃の姉ではないかもしれないけれど、出来ることならばやり直したい。
姉が生きている世界で。
もしも、本当に生まれ変わってこの世界に帰って来てくれるとしたら、あの頃叶わなかった願いを実現したい。
つい先程まで、認めたくなかった想い。
生まれ変わった姉など認めないと言う想い。
けれど、気付いた。

どこか姉を思うと苦みを伴う痛みに。

「わたしは…あなたを求めると同時に、憎んでいたんだ…っ」
『分かってるよ』
「っ…だっ…」

誰とは問えなかった。
だってそれは、姿が違ったとしても、見あやまる事はない存在。
あの頃と変わらぬ光を持った人。

「ねぇさまっ…っ」

微笑みながらこちらを見る姉に手を伸ばす。
その手の先に青い光が瞬いた。

《願え》

握りしめ叫んだ。

「貴女が守った国をっ…」

まばゆく光る青い光に包まれ、姉の姿は見えなくなった。


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