蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜二人の関係〜‡

大事な話があるのだと聞いても、春臣と二人きりになるのは少し避けていた。
置き手紙だけで飛び出した手前、今までの経験上、怒られる事は明白だったからだ。
先手を打って謝ったのは良かったが、その後に続いた話に、かつてない程、頭が真っ白になった。

「私のかつての名は、バルト…バルト・オークス…」
「っ…ッ…」

信じられなかった。
あの人の面影を確かに見てはいたけれど…。
「…っ…バルト…」

もう、何が何なのか分からなかった。
ただこの場にこれ以上居られそうになかった。

「蒼葉…様…っ」

扉へと向かったはずなのに、何も見えない。
抱き締められているのだと気付いても、動く事ができなかった。

「蒼葉様…貴女は、私にとって大切な方です。
それと同じくらい。
リュスナであった貴女を大切に想っていた…。
あの時の感覚は、忘れる事ができない。
貴女をなくしたあの時の感覚…。
だからこそ、今が幸せで仕方がない。
なくした貴女ではないけれど、貴女を…抱き締めている…。
けれど、貴女があの時の私の罪を許せないのなら…」
「ッ違うっ。
私はお前に…」

酷い事をしたのだ。
どんな想いで私を殺したのだろう…。
私と気付いた時のあの顔が忘れられなかった。

「お前を…裏切った…心を、理解していなかった…っ私はッ…んっ…っ」

突然だった。
どう謝れば良いのかと逡巡していた唇が、優しく、けれど強引に塞がれた。

「…ずっとこうしたかったんです…。
貴女を愛している…。
もっと早く言えたら良かった…。
貴女に他に愛する人がいたとしても構わない。
あの時の私を許すと言うなら、知ってください…私の心を…」

卑怯だと思った。
こんなにも強引に想いを打ち明けて、簡単に退路を塞ぐ。
私は…。

「私は…私の勝手な想いで、あの時お前を選んだ…。
その結果、嫌な思いをさせて…。
辛い思いをしていたと…聞いた…。
私は償わなくてはと思ってる…けど…」
「分かっています。
私の想いと、貴女の想いは違う。
追い詰めるつもりはないんです。
こうして、傍にいるだけで十分…。
貴女がそれでも気にやむと言うのであれば、時間をかけてゆっくり考えてくれませんか…?
貴女と私の関係を…」
「…うん…。
なら、とりあえず…一緒に寝てとは言わないようにする…」
「…っ…そっ…それは…っ」
「うん?」
「いいえっ、これからも一緒に寝ましょうっ。
大丈夫、何もしません…っ」
「うん?ふふっ…」

良く考えよう。
これからも変わらない関係と、これから変わっていく関係を…。


< 145 / 150 >

この作品をシェア

pagetop