蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜長き想い〜‡

ゆっくりと夜の闇に包まれた城の中を歩く。
数日過ごした城には馴れ、迷う事はない。
そうして月明かりを見ながら、無意識に書庫へと足を向けた。
独特の匂いになぜか安心する。
しかし、ふと人の気配に足を止めた。
良く知っている気配。
次に聞こえてきた声に、ビクリと身体が強ばるのを感じた。

「そこに居るのは姫ですか?」
「…クルス…様…」

ゆったりこちらに向かってきた昔と変わらぬ姿に鼓動が速くなる。

「様はいらないはずですよ…」
「っ…いえ…」

何だろう、どうしたと言うのだろう。
何だかもやもやとする。

「…リュスナ姫…?
いえ…蒼葉様でしたね…?」
「っ…」
「ふふっ、こちらに来て座りましょう。
奥にお茶を用意してありますから」
「えっ…?」
「貴女とそろそろ会えるような気がして、用意していたのです。
さあ…」
「…はい…っ」

奥につながる休憩室は、格子のはまった窓があり、今日の明るい月の光を部屋へと導いている。

「どうぞ」
「ありがとうございます…」

椅子に座り、出されたお茶を一口飲んで気が付いた。

「わかりましたか?
貴女の好きだった花茶です。
懐かしいでしょう?」
「はい…」

覚えていてくれていたのかと思った時、歓びと同時に胸が痛んだ。

「どうしましたか?」
「…っクルス様…私は…あなたとの約束を…っ」
「…貴女の決意をわたくしが認めないはずがないでしょう?
あの時、貴女の取った行動は、確かにわたくしにとって衝撃でした。
けれど、それを責めたりしませんよ?
それとも、貴女にはわたくしが、そんな狭量な男に見えるのですか?」
「…いいえ…っ私は…っ」
「ふふっそうですね…。
姫、あの日の夜の言葉をもう一度、わたくしにくださいませんか?
一言でかまいませんよ。
それで許して差し上げましょう」
「っ…あの日…っ?」
「思い出せませんか?」
「っいいえっ…」

何だろう…。
何だか恐い…?

「クっ…クルス様っ…」
「クルスですよ?」
「…ッ…クルス…」

何だか追い詰められているように感じる。
それに何より、恥ずかしい…。

「くくくっ…っ」
「???…」
「っあぁ、すみません。
少し意地悪をし過ぎました。
どうやら、自分が思っている程、心は広くないようです」
「???」
「ふふっ、貴女が悪いのですよ?」
「ッ…んっ…んん…っ」

一層意地悪く瞳が煌めいたと思った矢先だった…。

「っんっ…はっ」
「愛していますよ…リュスナ…」
「っクルス…っ」
「貴女は?
わたくしの事など、もう…」
「っ好きですっ…愛して…ます…っ」
「ふふふっ…貴女限定で、狭量な男になるのも良いかもしれません」


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