蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜想い寄せ〜‡

閉じた日記は涙で滲みふよふよと揺れている。
三日かけて全てを心に染み込ませるように読んだ。
何も考えなくても覚えてしまうのに、心に刻みつけようとして、ひどく読みづらかった。

自分の感情が当時、希薄なのは理解していたつもりだ。
誰かを想った事などなかったかもしれない。
人に興味がなかったのだ。
今でもそうだろう。
民の為にと思った。
だがそれは、悲惨な状況を見ていられなかっただけだ。
本当に民の為にと思ったわけではない。
物語りに出てくるような正義や愛の下に行動したわけではないのだ。
そんな私だから、これほどまでに”私”の事を想ってくれていたとは思いもしなかった。
思えば心からの信頼を、彼らに向けたことがあっただろうか…。
こんなにも想われていたなんて…。


面倒な皇女のお守りを任された憐れな人達。


それが、従者や側付きの騎士達への認識だった。
”王の騎士”王の為の騎士の称号。
それが、十六になった時に唯一父から与えられたモノだった。
私が戦う術を身に付けたと知った父が用意した称号。
実際に父に送られる刺客を私が処理していた。
誰一人として、父に触れられる者はいなかった。
私につけられた従者や騎士の多くは、父王が私を邪魔に思った時、処理する為割り当てられた者達だと父や、その側近達に告げられた。
生かされているのだと思っていた。
もちろん、簡単に殺られる気はなかったから、城を出て反乱軍を率いていた時もついて来た者を拒まなかった。
何よりも、繋がっている彼らを通して、父に少しでも悔い改めてほしかったからだ。
そして、何より最後に彼らに私の最期を見届けさせる為に…。

自分の意志で仕える人を選んでほしかった。
人には感情が、考える頭があるのだから。
自分で考えて、生き方を決めてほしいと思った。
その為には”ゼロ”に。
王も私もいない世界を彼らに渡したかった。
仕える名目も、命もなくして…。

全てのリセットをしたあの時の私は、間違っていたのだろうか…。


< 17 / 150 >

この作品をシェア

pagetop