蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜不安〜‡

「姉ちゃん。
どっか行くの?」

そう聞いたのは、蒼葉に勉強を見てもらおうと、部屋を訪れた時だ。
あのイル達との宴の晩から約一月が経った頃だった。
相変わらずイルは、毎日のように他の人の目を盗んで会いに来ている。
だからイルに思いきって聞いてみた。

「姉ちゃんって、あの庭へよく行くのか?」
〔みみゅ〜ぅ《まいにちよ〜》〕
「毎日!?
何しに行ってんだ?」
〔みみみぃ〜みむぅ《”とうぶ”できたえてる〜つよくなった》〕
「トウブ???
強いって…格闘技かなんか?」
〔みみみみゅ〜みみみ《たたかうためのおどり〜ひめじょうず》〕
「そう言えばきたえてるって…。
姉ちゃん、強くなってどうすんだろ?」
〔みみ〜ぃみみむぅみみ〜《たびにでる〜とびらのむこうのせかいへ〜》〕
「たび?!
扉の向こうって…っまさか…」

そんな話をした数日後だった。
姉ちゃんの部屋の違和感に気付いたのは…。
キレイ好きの姉ちゃんの机の上が、物で溢れていた。
それも、大半が非常食のようで、乾パンのような物が目にはいる。

「ちょっとね…会いたい人達がいるんだ。
昔お世話になった人達で、迷惑をかけたから、謝りたくて…やっと決心がついた」
「姉ちゃんでもそんな事あるんだ。
何か失敗したの?」
「…そうだね…失敗と言うか…面倒事を全部押し付けて逃げてしまったんだ…。
だから、どうなったのか気になって…」
「…遠い所…?」
「うん…。
でもそんなに長い間ではないから。
ひと月くらいを目処にするよ」
「ひと月…長いよ…。
俺も一緒に行きたい…」
「?あまり面白い所じゃないよ。
家でイル達と遊んでる方が良い」
「…ちゃんと言ってよ。
姉ちゃん、異世界に行くんだろ?
イルに聞いたんだ。
それに、そこへ行く為に体をきたえてたんだろ?!
危ない所だって事じゃないの?!」

言葉にして気付いてしまった。
いつも側にいる蒼葉がいなくなる不安感。
もしかして家に帰って来ないんじゃないかと…。
そう思ったら、どうしたら良いのかわからなくなった。

「!快!?
何で泣いて…!?」
「っッッ姉ちゃん何かもう知らないッッ」

訳がわからない想いでいっぱいになって、思わず部屋を飛び出した。



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