蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜残されたモノ〜‡

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今日の夜から出かける。
屋敷の事、父の事頼むよ。
数日帰ってこないけど、気にしないで。
連絡もできないけど、必ず帰るから。

蒼葉



仕事に追われ、徹夜を覚悟した夜十二時。
昼間に送信されていた蒼葉のメールを何気なく読んで飛び上がった。
すぐに電話をかけるが、電源が入っていない。
嫌な予感がする。
蒼葉は充電中であっても電源を切らない。
どんな場所であっても、マナー設定をして電源を切るなんて事は絶対にしないのだ。
そんな蒼葉の携帯の電源が入っていない。
絶対におかしい。
だが、だからと言って屋敷に電話をして確かめさせるのも、また蒼葉に過保護と言われて呆れられそうだ。
嫌われない事が一番。
決断は早かった。
今までの眠気は吹っ飛んだのだ、三倍速で仕事を片付けにかかった。
何とか終えたのが朝の二時。
屋敷に着くと、寝静まった屋敷を、静かにかつ素早く駆け抜け、蒼葉の部屋の前に立った。
息を整え、ノックを二回。

「蒼葉様」
「…」
「…入りますよ」

そっと開けた部屋は暗く、胸騒ぎが一層強くなる。

「蒼葉様…お休みですか…?」

部屋の奥へと進むと、机の上に充電中の携帯を見つけた。
画面を開けば、やはり電源が入っていない。

「蒼葉様っ…」

真っ暗な寝室には、痕跡すらない。

「どこへっ…」

部屋を見渡し、何か手がかりがないかと考える。
確かにいつも出掛ける時に持って行く愛用のカバンがない。
クローゼットの中を確認すれば、何か足りないような違和感もある。
しかし、旅行用のカバンはあるのだ。
最低限の物を持って行ったのだろう。
だが何処へ行ったのだろうか。
数日とメールにあった。
二泊できるかどうかの用意で、わざわざ数日と書いてあるのだ。
自炊がきく所か、実家だろうか。
考え込んでいれば、部屋のドアが不意に開いた。

「柚月…?」
「…っ快?」

窺うように顔を出したのは、木坂快だった。



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