蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜側に在る為に〜‡

〔それで、どうしたいんじゃ?〕

結局、柚月を振り切る事ができず、イルと三人で屋上の庭へとやってきた。
待っていたと言うように迎えてくれたクウルに経緯を説明すると、改めて問われた。

〔姫は帰って来ると言っていたのじゃろ?
ならば、待ってはどうじゃ?〕
「でも、あっちは危ないんだろ?
ちゃんと帰ってこれるかわかんないじゃんか」
〔確かに、平和に慣れた者にとっては危ない所じゃろうな…〕
「だったらっ一人で行かせちゃだめだろっ」
〔言ったじゃろ。
”平和に慣れた者には”と…。
姫なら問題ない。
昔ほどではないとはいえ、勘は取り戻しておったしのぉ。
それに、平和呆けするほど楽で幸せな人生を送って来れたわけではない。
まぁ、それはそれで悲しい事ではあるんじゃが…〕
「どう言う意味です…?」
「柚月…?」
「あの方が、幸せではないと…?」
〔そうじゃな。
少なくともわしには、幸福を知っているようには見えん。
だが、姫は今幸せじゃと言っておった。
今生では愛されている事を知ったと…〕
「コンジョウって?」
〔今の生と言う事じゃ。
今の姫として生まれる前の幾つかの生は、決して楽なものではなかった様での。
二十歳まで生きられた事がないと言っておったよ…〕
「…先程から、これまでの生とか昔はと言われておられますが、一体何の事です…?」
「…そう言えば…姉ちゃん、昔お世話になった人に会いに行くって、ちっちゃい時にって事……じゃぁないよな?」
〔…今日はもう扉は開かない。
じゃが、そうじゃな…姫の事を話しておくとしよう。
そなたらは知るべきじゃ。
姫のお側に在る者として…。
付いてまいれ〕

クウルは、空に向かって杖を振り上げた。
何事かを呟くと、淡い光が集まり、それを前方へと向ければ、光の入り口が出来上がった。

〔こっちじゃ〕

光に飲み込まれるように進んでいくクウルに、柚月と二人顔を見合せて、互いに頷き光へと足を踏み入れた。


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