蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜探して〜‡

光をくぐった先は、屋敷の敷地内にある洞窟だった。
後ろを見れば、光の入り口は消え、屋敷が遠く見える。

「ここに何があると言うんです?」
〔ここは扉がある場所じゃ。
…そして、かつて”蒼き風の君”と言われた姫の眠る場所でもある〕
「姫?
姉ちゃんの事?」
〔そう。
今の姫として生まれる幾つか前のな…前世と言う方がわかるのかのぉ〕
「前世…?
蒼葉様にはその時の記憶があるのですか?」
〔うむ。
姫は全て覚えておる。
忘れても良い過去の記憶…忘れるべき過去の記憶も全てな…〕
「すっげぇ。
やっぱり姉ちゃんはすっげぇ」
〔良い事ではない〕
「なんで?
前世を知ってんだろ?
それって、お得なんじゃねぇの?
経験してきた事全部持って生まれるって事じゃん。
勉強も、何だってできるのは、全部覚えてるからなんじゃん?
やっぱしめちゃめちゃ良いことじゃんか」
〔本当にそうかのぉ。
快には、失敗して忘れてしまいたい過去はないか?〕
「えっ…う〜ん。
ある」
〔忘れたい事も忘れる事ができん。
記憶が薄れて行くからこそ、それを糧にできる。
またあるいは、近しい人が死んでしまっても、姫は過去にはできん。
その時の悼みを、過去にする事ができんからじゃ。
人は、記憶が薄れていくからこそ、悲しみから立ち直れるんじゃから…〕
「だから先程、あの方は幸福ではないと言われたのですね…?」
〔まぁ、それだけではないがの。
何もかも、つい先程の事のように覚えておるんじゃ。
もう何百年も前の己の行いを、忘れる事なく生きておる。
姫は、今でも自分の死に際をも覚えているんじゃ。
主らは、耐えられるか?
自分が死ぬ時の痛みをいつも心のどこかで感じながら生きる事に…〕

気付かなかった。
最近、蒼葉は優しく微笑むようになった。
子どもの頃から、あまり笑う事のなかったあの人が、慈しむ様に笑うのだ。
その微笑みに、何度救われたか分からない。
だが、その笑顔の裏では、決して癒える事のない傷を心に抱えていたのかと思うと、不甲斐ない自分に怒りがこみ上げてくる。

「…何の役にも立たないじゃないか…」

役に立ちたかった。
支えになりたかった。
何もかもに絶望していた俺を救い上げてくれたあの人に、何か返したかった。
いや…違う…。

俺は…。



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