蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜光の中に立つ〜‡

深い森。
たくさんの命の気配が感じられる。
生き生きと風に揺れる草木。
大小様々な動物達の気配。
近くを流れる川は、夜でもキラキラと光っている。

ここは…精霊王の棲む森。

フラに案内された森は、神殿の丘を下り、更に小さな丘を二つ越えた場所だった。
中天にあった月が傾き、遠くに見える山の峰がうっすらと朝日を帯びる頃。
まだ光の届かない森は白い霧を纏って、眠りの中にいる生き物達の気配を隠している。
楽しそうに少し前を跳ねながら進むフラに付いて歩きながら、穏やかな気配に包まれる懐かしい感覚を感じていた。
朝の光が森に射し込んでくる。
たどり着いた場所は、広く美しい場所だった。
その中心に彼は立っていた。
こちらに背を向けてゆっくりと明けていく空を見上げている。
広場に入る三歩手前。
木によって光が遮られている闇の中で立ち止まる。
フラはそのまま彼の足下まで跳ねていく。
気付いたようにゆっくり振り返る光の中の彼は、昔と変わる事なく美しい。

目が合った。

瞬間、声すら発せずにいる自分に戸惑った。
そして気づく。

会ってどうしたいのだろう。

何も言わずにこの世を去った。
あの時彼は側にいなかった。
いたとしても、私は何と言っただろうか。
何と言って欲しかったのだろうか。

先に目を反らしたのは私だった。

彼にとっては、私が感じる様な師弟の情などなかったかもしれない。
こうして会っても彼は、何とも思ってはいない存在であった私に、言葉の一つでもかけてくれるのだろうか。

「っ…あっの…」
〔みみゅむ《ひめ、はやく》〕
「…っいや…っ」

どうすれば良いのかわからないなんて事初めてだ。
足を踏み出す事ができない。
これがパニックかと事態の把握を始める頃、すぐ目の前に突き出てきた手に驚いた。
こちらの腕を掴むと、彼に強引に引き寄せられた。
気付いた時には、彼の腕の中だった。

「…リュスナっ…」
「っ…ッ…」

押し殺すように耳元で呟かれた声に、涙がこぼれた…。


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