蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜過去の憂い〜‡

「…一人でよかったのに…」

春臣によって成金男達の輪から救出され、車のシートに身体を預た。
心の底から溜息をつく。

「眠っても良いですよ」
「うん…眠れそう…」

そう言ったが、やはりまだ眠れない。
これ以上春臣に手間を掛けさせたくはない。

「…よかったの?」
「社長ですか?
あなたを任せられました。
明日も休みをくれるそうです」
「父が…そう…。
春臣も休んで。
私の面倒などみなくていいから、好きに出掛けたりすれば良いよ」
「嫌ですよ。
あなたの面倒は俺がみます。
なので、大人しく寝てください」
「…変なの…」

まったく変わったやつだ。
拾われた恩を未だに引きずっているのか、何かと手をやきたがる。
面倒見が良いと言えばそれまでだが、要らぬ苦労まで背負い込むのは如何なものかと思ってしまう。

「もう着いてしまいますよ。
眠らないんですか?」
「眠れないよ。
また夢を見そうだから…」

そう、きっとまたあの夢を見るだろう。
はっきり言ってうっとうしい。
真に休まる事もできない。
早くこの生も終わらぬものかと切に願う。
思えば、最初にこの世に生を受けてから、常に終わりを待っているようだ。
無駄に続く人生は億劫で、ただ生きているだけ。
最初だけは、何かを模索し続け、運命を切り開こうと人並みに努力した。
二十年もない、短い生だったけれど、自分で決めた人生だった。


「…早く…眠りたい…」


眠りたい。
深い眠りに…。
二度と目覚めぬ眠りに…。


そう、つらつらと考えていれば、屋敷に到着した。
車を降り、ふと空を見上げれば、あの日に似た美しい夜空が広がっていた。
そして同時に浮かんでくるのが、最期に見たあの人の泣き叫ぶ顔…それと…。

「何を言っていたんだ…」

泣きながら必死で何かを叫んでいた。
いったい何を言いたかったのだろう。
聞こえていたはずなのになぜか”思い出す”事ができない。

今、あの人の言葉が知りたい…。


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