蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜後ろにいた者〜‡
きらきらと飽きる事なく瞬く空を見上げ、ふっと目を閉じる。
少し前から、近くになぜか春臣がいるように感じる。
あんな置き手紙で納得しない事は分かっている。
きっとあの手この手で、私を探しているだろう。
眉間にシワを寄せて走り回る彼の姿が、瞼の裏に浮かび、思わずニヤけてしまった。
そして突然ふと思い出した。
久しぶりに眠ったあの日。
目覚める少し前に見た夢は、いつも見る夢とは違っていた。
誰かが泣いている…。
『ふっ…くっ…すん…
ふっん…くっ…』
この泣き声を知っている…。
声を上げる事なく、部屋の隅に小さくなって、自分の能力に怯えながら、自分を押し殺すように泣く癖。
”シリス”幼い双子の片割れ。
人見知りで、恥ずかしがり屋の可愛い妹。
彼女は未来を予見する力を持っていた。
だから、この先の未来に怯え、苦しんで涙を流す。
まだ上手く言葉にして他人に教える事ができなかったから、自分の中に抱え込んで、独り閉じこもって…。
あの日、私が双子達の身体の弱い母を国から出す事を決めた日。
部屋から一歩も出たがらないシリスが突然、一人で私の部屋までやって来た。
そして、顔が合うなり、抱きついて大泣きしたのだ。
初めて聞いた彼女の悲痛な泣き声に、驚いて、ただその小さな体を抱き締めた。
小さな手で必死に私にしがみついて、泣きながら言ったのだ。
『死なないで…っ』
言われた事よりも、まだ死を知らない五歳の子どもが、その言葉を発している事の方が辛かった。
だから、泣き疲れて眠るまでずっと考えていた。
この子が心穏やかに生きていける場所を。
力に怯えなくても良い方法を。
少しでも笑顔で、子どもらしく笑い、泣きたい時に思いっきり泣ける世界を。
この子の為に何ができるだろうか。
あの時、あの子の言葉が少しでも心に引っ掛かっていたなら、私は死を選ばなかったかもしれない。
ゆっくりと瞼を上げれば、夜の風が目にしみった。
私はどれだけの物を残してきたのだろうか。
後ろを振り返る事などなかった。
それは、最終的な判断の下に進んできた道であったからだ。
ナーリスに今日言われた言葉を思い出す。
『ちゃんと後ろを確認してちょうだい。
きっとあなたを想う人と、目が合うはずだから◎』
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには扉がある。
中では今ごろ、ラダとナーリスが眠りについているだろう。
静な家にふっと笑いながら、そっと扉を開けて、すっかり冷えた体を中にすべりこませた。
きらきらと飽きる事なく瞬く空を見上げ、ふっと目を閉じる。
少し前から、近くになぜか春臣がいるように感じる。
あんな置き手紙で納得しない事は分かっている。
きっとあの手この手で、私を探しているだろう。
眉間にシワを寄せて走り回る彼の姿が、瞼の裏に浮かび、思わずニヤけてしまった。
そして突然ふと思い出した。
久しぶりに眠ったあの日。
目覚める少し前に見た夢は、いつも見る夢とは違っていた。
誰かが泣いている…。
『ふっ…くっ…すん…
ふっん…くっ…』
この泣き声を知っている…。
声を上げる事なく、部屋の隅に小さくなって、自分の能力に怯えながら、自分を押し殺すように泣く癖。
”シリス”幼い双子の片割れ。
人見知りで、恥ずかしがり屋の可愛い妹。
彼女は未来を予見する力を持っていた。
だから、この先の未来に怯え、苦しんで涙を流す。
まだ上手く言葉にして他人に教える事ができなかったから、自分の中に抱え込んで、独り閉じこもって…。
あの日、私が双子達の身体の弱い母を国から出す事を決めた日。
部屋から一歩も出たがらないシリスが突然、一人で私の部屋までやって来た。
そして、顔が合うなり、抱きついて大泣きしたのだ。
初めて聞いた彼女の悲痛な泣き声に、驚いて、ただその小さな体を抱き締めた。
小さな手で必死に私にしがみついて、泣きながら言ったのだ。
『死なないで…っ』
言われた事よりも、まだ死を知らない五歳の子どもが、その言葉を発している事の方が辛かった。
だから、泣き疲れて眠るまでずっと考えていた。
この子が心穏やかに生きていける場所を。
力に怯えなくても良い方法を。
少しでも笑顔で、子どもらしく笑い、泣きたい時に思いっきり泣ける世界を。
この子の為に何ができるだろうか。
あの時、あの子の言葉が少しでも心に引っ掛かっていたなら、私は死を選ばなかったかもしれない。
ゆっくりと瞼を上げれば、夜の風が目にしみった。
私はどれだけの物を残してきたのだろうか。
後ろを振り返る事などなかった。
それは、最終的な判断の下に進んできた道であったからだ。
ナーリスに今日言われた言葉を思い出す。
『ちゃんと後ろを確認してちょうだい。
きっとあなたを想う人と、目が合うはずだから◎』
ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには扉がある。
中では今ごろ、ラダとナーリスが眠りについているだろう。
静な家にふっと笑いながら、そっと扉を開けて、すっかり冷えた体を中にすべりこませた。