蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜蒼の舞姫〜‡

デュカに案内されたのは、街道から少しそれた場所にある一本の大木の前だった。

「居るわね〜」
「っ…こいつは…っ」

ひしひしと感じる。
若い、そして強い魄動。
一本進み出て、落ち着けるように息を整えると、真っ直ぐに見据えて語り掛けた。

「この地の主とお見受けいたします。
私の名は早宮蒼葉…かつてこの世界で生きた名は、リュスナ・フォル・カルナ」

ザワザワと激しく葉が揺れると、突風の様に木の葉が渦巻き、目の前に降りてきた。

《蒼き風か…話には聞いておる…何用だ》
「おそれながら、この地へと許可なく流れ住む者達の無礼、ご容赦願いたくお伺いした次第。
国の現状を早急に改善するとお約束し、今しばらく彼らを留め置く事をお許し願いたい」

リュスナとして生きていた頃も、こうして遠征の為に通る事を事前に許可してもらっていた。
父はこう言った細かい事が頭になく、私が騎士として外に出る前から、こっそりと行っていた事だ。
祟りが厄介な理由は、周りの者も巻き込まれると言う事だ。
兄や姉達の虚弱体質も、突き詰めれば祟りのせいでもあった。
それを知った時、国に点在する神霊地を徹底的に調べ、全ての地の主に赦しを乞た。
そして、見返りとして神霊達に行ったのが、”蒼風の舞”だった。

《魂は同じか…では、この地を浄化してみせよ。
蒼き風が舞う様に…》
「はい…」

一度目を閉じる。
感じるのは澱んだ気。

〔ディル〕

足下に金の魔法円が描かれる。

〔カナ〕

強い光を発し身体を包み込む。

〔ラトゥール〕

ひときわ輝くと、光が収束し、魔法円が消える。
そこに立つのは、濃い蒼の衣に、軽い薄めの蒼を幾重にも重ねた舞姫の出で立ち。
手首と足首に鈴のような輪がはまり、少し動けば、涼やかな音色が聞こえた。

「すてき◎◎◎」
「っ…なっ…」
《『ふむ、美しいな』》

呟かれた言葉に微笑み、もう一度目を閉じて集中する。

シャランっ

そして息を整え、舞始める。
足で土を撫で、円を描く様に…。
発音に注意しながら歌うのは聖なる神言。
手は腰紐にかけられていた扇を右手に、軽やかに空を切る。

シャランっ、シャランっ

どれだけ不規則に動いても、一定のリズムで鳴る音は、空気を振動させる。

シャラ〜ンっ

そして蒼い魔法円が完成した。


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