蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜彼の姫を想う〜‡

「ッッ…何事だっ??」

突然、まるで爆発するかのように大きな魔力が放出されるのを感じ、エルフの王、エルバンは驚いて椅子から腰を浮かせた。
しばらくして速まった鼓動が落ち着きを見せる頃、執務室の扉を慌ただしく叩かれた。

「陛下っ…今、法務省が旧カルナ国王都内で、強い浄化反応を感知したと報告がっ…」
「今の強い力はそれかっ…状況は?」
「はいっ。
偵察用の物見鳥が飛び立ち、上空を旋回、送られてきた映像には…『ヘリクトレス』の魔法円が…」
「なにっ?!
あの『ミュクラー』の?!」
「はいっ…間違いないかとっ…っ」

信じられない。
あんな術者を生け贄にするような術を使える者も、使おうとする者もこれまで存在しなかった。
いや…かつて一人いた。
全ての国の王達が、一度は欲した。

”蒼き風の君”

唯一、完璧な浄化をする事ができる存在。
あまり感情を面には出さないが、その心は高潔。
上手く父王に隠れてはいるが、その人心を魅了し、統治する事のできる素質は、どの王も敵わないだろうと噂された。
”国喰いの国”と揶揄されるカルナ国には、他国のどの王も、次に標的にされるのは自国ではないかと恐れていた。
どれ程巨大な国であったとしても、種族がちがえど、まだ他に数多くある国々が同盟を結び、一致団結してこの強国を打とうとすればどうかと何度か話があった。

だが、それが現実味を帯びなかったのは、一重に彼の姫が居たからだろう。
浄化の力を持った姫ならば、必ず現状を憂いて立ち上がってくれる。
そしていずれは彼の国に王として…。
そんな期待を秘めて多くの国が静かに見守っていた。

やがて、姫が姿を消し、反乱が起こった。
皮肉にも、彼の姫の存在が、立ち上がろうとする民衆を留めていたのかと知った時、何と人とは浅はかで弱い種族かと落胆した。
だが、混乱する国へと各国が偵察を行い、姫が正体を隠して反乱軍を指揮していると知ったときの喜びは大きかった。
しかし、姫は思わぬ計画を立てていた。
知っていたら、何としてでも阻止し、王に据えていただろう。
我々が出来た事と言えば、全てが終わった後に、姫の亡骸を自国の民達から守り、かつてないほど盛大に葬儀を行った事だけだった。

誰もが帰ってきて欲しいと願った。
”記憶する者”である姫ならば、いつの日にかと…だからこそもしかしたら。

「リュスナ姫…」



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