蒼の王国〜金の姫の腕輪〜
‡〜待ち人〜‡

「っ…?…リュスナ姫…?」

自室で編み物をしていたフェリスは、彼の国の方角で、ふっと突然膨れ上がった魔力に驚き、顔を上げ呟いた。

「フェリス様?
如何されました…?」
「…今…」
「フェリス様???」

次に突然立ち上がった女主人のただならぬ様子に、侍女逹は慌てた。

「フェリス様っ?」
「父上に会ってきます」

普段の物静かな彼女からは想像できない勢いでキッパリと告げられ、長いドレスの裾をたくしあげて外へと飛び出していく姿に、一瞬呆然とし、次の瞬間慌てて全員で後を追った。

「「「ッッフェリス様ッッ」」」

身体能力の高いエルフは、瘴気さえなければ、この世の人型種族の中で最も速く走れる種族だ。
その中でも最も古い純血の王の娘として色濃くエルフの血を継いだフェリスの脚力は、侍女逹の誰一人として追い付けるものではなかった。

「っおっお待ちくださいっ…っ」

一直線に王の執務室へと爆走する姫を、見回りをしていた騎士逹が目をむいて見送っていく。

「ッッ…フェリス姫様っ???」
「どいてくださいっ」
「姫様っ何事ですッッ?!」
「お気になさらずっ」

そう言って、もの凄い勢いで駆け抜けていく姫を呆然と見送ると、その後から二十名程の姫付きの侍女逹が、そんな彼らを罵って、同じ様に駆け抜けていった。

「お止めしなさいよっ」
「グズっ追いかけるなりなさいっ」
「何もできないなら大人しく壁際に立ってなさいっ」
「役に立たない男…」
「無能ですわっ」

等々…姫付きの美しい侍女逹に口汚く罵られ、反論出来ず愕然と壁際に立ち尽くす騎士逹が広い王宮の廊下に取り残された。

「父上っ」
「っなっ何だ?!
フェリスっ???」
「先程、彼の国の方角で、凄まじい魔力を感じました。
報告はございまして?」
「うっ…っああ…だがどうして…?
あの国で何があろうと、無関心だったお前が…?」
「何か問題がありまして?」
「いっいやっ…ないっ…」

常ならぬ態度と口振りに、内心ドキドキしながら話を進めた。

「法務省の見解によれば、先程の術は、ミュクラーの『ヘリクトレス』…天上の歌だそうだ…わしの知る限り、この術を発動できた者はただ一人だ…」
「…リュスナ姫…まさか本当に…っ」
「術者を確認してはおらん。
だが、わしは…そうであれば良いと思っておる」
「ええ…っ…こうしては居られません。
出かけてきます」
「へっ…?!」



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