Do you love“me”?
「今すぐではないんだ。でも――」
そこまで言って、私の手をそっと握った。
「数ヶ月後には……行く事になると思う」
「数ヶ月?」
稜君の言葉はハッキリ聞こえているのに、なかなか頭に入ってこなくて、指先がジワジワと冷たくなっていく。
「どうして……今?」
だって今はシーズン途中で、素人考えだと、すごく中途半端な時期に思えてしまう。
私のその問いかけに少し顔を顰めた稜君は、フーッと一度、息を吐き出した。
そしてもう一度、私の目を見据えて口を開く。
「ワールドカップの後、俺にも移籍の話がきてたんだ」
「……え?」
今まで知ることのなかった事実に、驚きの声が漏れ出てしまった。
「でもチームのフロント同士の交渉が上手くいかなくて、結局そのまま今のチームに残る事になったんだ」
「そうだったの?」
「うん。でも俺、どうしてもあきらめきれなくて」
そこまで言うと、稜君はそれまで合わせていた瞳を静かに伏せた。
「ずっとチーム側に期限付きでもいいから、移籍させて欲しいってお願いしてた」
初めて聞かされた、いわばサッカー選手としての彼の状況に戸惑いながらも、私は俯いた稜君を見つめ、ゆっくり口を開く。
「それで……?」
話を急かしたいんじゃない。
だけどこのままじゃ私の心臓がもちそうになくて。
無意識のうちに震えていた私の声に視線を上げた稜君は、申し訳なさそうに顔を顰めて言ったんだ。
「この前、やっと移籍先が決まったって連絡がきた」
「……っ」
こんな時、私は一体、何て言えばいいんだろう?
稜君の願いが叶って、誰よりも喜んで、「おめでとう」って言いたいと思うのに。
「ごめん」
それに、その“ごめん”の意味は?
「別れるの……?」
その言葉を口にした瞬間、稜君はそれまで以上に辛そうな表情を浮かべながら、大きな声を上げた。
「違う」
「……」
「違う。違うよ、美月ちゃん」
私の腕を引いて、ギュッと抱きしめた稜君の、いつもよりも少し速い鼓動を聞きながら……。
私の瞳からは、涙がポロポロ、零れ落ちたんだ。