Do you love“me”?

その日から、私は信じられないくらいの勢いで働き続けた。

私の仕事が終わるのが、夜の八時くらいで、そうすると、ロンドンは同じ日の午前十一時。

ちょうど練習の真っ最中なんだ。

だけど、ちょっと残業をしていれば、稜君がお昼休憩の時間に電話をくれたりする。

だから私は、今までは避けたいと思っていた残業も、進んで引き受けた。


稜君のいない時間の使い方がわからなくて、何でもいいから、気を紛らわす物が欲しかった。

その話をおねぇーにしたら「やっぱ私達、姉妹だね」って笑われて、今まで自分からは話す事のなかった、航太君と別れた後の話をしてくれた。


「私もね、アメリカ行ってから働きまくったよ。一人で考える時間があるのが怖くて」

「うん。何となくわかる」

「でも私は家に帰ると一人だったし、結局、いっつも航太のことを考えていた気がするなぁー」

クスクス笑ったおねぇーは懐かしそうに、その頃の事を口にする。


「泣いたら、航太と別れた事を後悔してるって認めちゃう気がしてね」

「……うん」

「“絶対泣くもんかっ!”って毎日毎日、気を張ってたんだよ」

「うん」

「そしたら……」

そこで一瞬言葉に詰まったように、間が開いた。


「おねぇー?」

「あー、ごめんね。そしたら泣くタイミング逃しちゃって」

「……」

「心の中にぜーんぶ溜め込んでるのにも、気付けなくて。“ミオは笑わないんだねー”なんて、周りにも言われてさ」

その言葉に、日本に帰って来てすぐのおねぇーを思い出す。

彼女の柔かい笑顔が大好きだった私も、その異変には気付いていた。


「だからね、美月? 泣きたくなったら、いっぱい泣いた方がいいよ」

「……っ」

「美月には、川崎君も、私も、航太だっているんだからね!」

「うん! ありがとう!」

おねぇーのその言葉に、気付かれないようこっそり涙を零した私は、やっぱり人前で泣くのが苦手みたい。

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