Do you love“me”?
わかってくれるかもしれないって、一瞬期待をした。
だけど。
「んー、それは残念。……でも、上に部屋取っちゃったんだよね」
「え?」
上に、部屋?
何が面白いのか、ニコニコと楽しそうに笑う最上さんに、私は言葉を失ってしまう。
「ホテルスタッフの目もあるし、シングルユーズにはさせないで欲しいんだけどなぁ」
絶対的な自信に満ちた目で私を見つめたまま、頬に触れていた手で、髪をさらりと撫でる。
「いえ、でも」
私は、それに大人しくついていくようなバカな女じゃない。
頑として譲らない私に、大きな溜め息を吐いた最上さんは、
「ここで押し問答していても仕方がないし、取り合えず、一旦部屋に行こう」
そう言って立ち上がると、私の手を掴んでスタスタと歩き出したんだ。
「ちょ……っと! 最上さんっ!!」
思わず大きな声を上げてしまった私に周りのお客さんの視線が集まり、隣に立つ最上さんは、困ったようにその表情を歪めた。
「俺も困るし、美月ちゃんも目立ちたくなかったら、あまり大きい声出さないでくれる?」
耳元でにスッと寄せた唇で、囁くようにそんな言葉を口にして、エレベーターに向かってまた歩き出す。
「最上さん、ホントに私……帰ります」
「美月ちゃん?」
「はい」
不意に立ち止まって、かけられた言葉。
「君も大人でしょ? 俺に恥かかせないで」
最上さんの表情は、さっきまでの穏やかなものとは全く違って……。
「……っ」
思わず息を呑んで、言葉に詰まってしまった私の指先が、冷たくなっていく。
何とかしないと。
そう思うのに、なかなか頭が働かない。
そんな私に気付く様子もなく、私の腰を抱いた最上さんに、
「すみません、ちょっとお化粧室に。あと……心配されるので、家に電話を入れてきます」
静かに、そう声をかけた。
一瞬、何かを探るように向けられた視線にドキッとしたけれど、私の腰からパッと手を離した最上さんは、ロビーに並ぶ深紅のソファーを指差した。
「話しのわかる子で良かった。向こうで待ってるよ」
「はい」
その目を見ながらゆっくりと頷いた私は、出来るだけ動揺を表に出さないように、パウダールームに向かった。