Do you love“me”?


「どーも。コンバンハ」

そんな言葉とともに、私の腕を掴んで、自分の方に引き寄せたその手の温もりを、私は知っている。

でもそれは、こんな所にいるはずがない人の温もりで……。


「俺に何か、お話があるそうで」

その、いつもより低い声も。

違う。

いるはずがない。

でも……間違えるはずもない。


驚いて振り向いた視線の先にいたのは、

「稜、君?」

部屋着のまま、パーカーのフードを頭からスッポリとかぶった、稜君だった。

ちょっと俯き加減だった視線を少し上げて、私と目が合った瞬間、ふわりと笑う。


「――……っ」

震える手で口を覆った私の頭を“ポンポン”と、その変わらない温かい手で撫でると、もう一度視線を杉本さんに戻した。


「俺に話があるんでしょ? 聞きますけど」

「……」

「あぁ、その前に」

私と同様、予想外の展開に言葉を失う杉本さんの手は、私の腕を掴んだまま。


「人の彼女に、気安く触んないでくれますか?」

それを掴み上げ、私の手を離した瞬間、ポイッと投げ捨てるように放り出す。


そして、溜め息とも取れる長い息を吐き出したあと、

「話、しないんですか?」

低い声でそう言って、ゾクリとするほど鋭い視線を杉本さんに向けたんだ。

それに、杉本さんが息を呑むのがわかった。


「俺があんたよりいい男かどうか、確かめるんじゃないの?」

稜君は、少し首を傾げながら、自分よりも背の低い杉本さんの顔を覗き込む。


「いや……別に、あれは……」

さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、杉本さんの口から零れ出る言葉は、とても小さく、情けないもの。
< 255 / 397 >

この作品をシェア

pagetop